「……ごきげんよう」
「征十郎さんは何になさるの?」
「親子丼にしますわ」
「また親子丼ですの!?月曜日も水曜日も親子丼ではありませんか!」
「体が欲しているのですわ」
「そうですの……ではわたくしはステーキ丼にしますわ」
「大和さんこそ今週はほぼステーキ丼ではありませんか。お野菜も召し上がりなさい」
「わたくしの血が肉を求めているのですわ」
「まあ野蛮」
「なんですって貧弱」
「俺のどこが貧弱だって」
「冗談ですわ」
「これいつまで続くんだ」
「お昼休みいっぱい」
「しんどい。今度は何だ」
「ブイチューバ―」
「もう分かった。お前がこの前言ってた子だろ」
「すごい記憶に残るんだよ」
「大和にしては珍しいな、あまりそういうの見ないだろ」
「ん~、なんか黄瀬が面白いから見てって」
「黄瀬?」
「うん」
「何故?」
「誰から聞いたのかID知られてて」
「えっ」
「先々週くらいからしょっちゅうメッセが飛んでくる」
「そうなのか」
「最初は怖いし無視してたんだけど、俺が返信するまで延々と送って来るんだよあいつ」
「ああ……」
「なんか映画とか動画とかいろいろ言ってくるからちょっと気になって観たら意外と面白くて」
「仲良くなった?」
「いや仲良くはなってない」
「なってないのか」
「黄瀬と連絡とるようになってからまた黄瀬が夢に出だしたからちょっと仲良くなれない」
「根が深い」
「今日も黄瀬が夢に出てきてイヤってほど絡まれた」
「黄瀬が出るといつも絡まれる夢だな」
「黄瀬とバイト先が一緒の夢なんだけど聞く?」
「生物の肉体がどうこうしたりするか」
「しないです」
「どうぞ」
「前に電器屋でバイトしてたことあるじゃん」
「ああ、謎の留守番バイトな。二週間だったか?」
「うん。俺いる?てくらいすることなくてずっと国会中継観てたやつ」
「ああ、チャンネル変えたら怒られるんだったな」
「そう。そのバイト先に時々ヘルプみたいな感じで事務スタッフの男の人が来てたんだけど、その人が俺ん家に来て犬……あの……おじいちゃんみたいな顔の犬」
「……シュナウザー?」
「……あ、そうこれ。このちっちゃいままのほうの」
「ミニチュアシュナウザー」
「ミニチュアシュナウザー。を、家に連れてきて、なんか俺ん家の影響で飼いました、一緒にドッグラン行きましょうみたいなこと言ってくるんだけど、俺ん家犬飼ってないのよ」
「ペット自体いないだろう」
「いない。俺ん家にいるのはふあふあできゃわなワトソン君だけだな」
「ワトソン君?」
「おじいちゃんお手製馬鹿でかテディベア」
「あのベッドの半分占拠してるぬいぐるみか」
「そう、征十郎が顔埋めて寝てたやつ」
「すごいふわふわで気持ち良かった」
「だろ。ベッド狭いけど絶対安眠出来る。で、俺ん家には犬いないのに何でか家族みんなとその男の人とでドッグラン行くことになった。日帰りだと思ってたら泊まりでキャンプしながらドッグラン巡るとか言い出して」
「ドッグランって巡るものなのか?」
「絶対違うと思う。……で、えーと夕飯食べるってなって、俺はてっきりバーベキューなりなんなりすると思ったら居酒屋に行くわけよ……」
「キャンプなのにキャンプ飯しないのか」
「もうわけわかんないんだけどその居酒屋がさぁ」
「もしかしてお前がセクハラされて一週間で辞めたとこか」
「そうなの……」
「夢見が悪い」
「ほんとだよ。なんでかその居酒屋で俺はアルバイトすることになって家族たちにお食事提供だよ。俺客じゃなかったの?て思いながらまあ仕事してたら『お疲れ様でーす』とか言って黄瀬が出勤してきて」
「やっとでたな」
「クソ店長と黄瀬の最悪なコラボレーションで俺はフライヤーに頭から突っ込みそうになった」
「危ない」
「俺の中の黄瀬がまともに仕事しない男だから夢の中の黄瀬も仕事しなくて、そのしわ寄せが全部俺に来る上に店長にケツ触られるし『今日シフトあがり一緒にご飯いかない?』てねっちょり誘われるし」
「根が深いやつその二だな」
「これがさ~~征十郎ならさ~~~別に俺はいいんです。ケツ触られようが揉まれようが脱がされようがいいの」
「うーん……」
「そんでとりあえずまあなんとか仕事熟して家族も帰るっていうから俺も帰ることになったんだけど、黄瀬がさ、さっきは大丈夫だった?てロッカーで着替えてる俺に聞いてくんだよ」
「うん」
「めんどくさいから平気って返したらあいつさぁ……『え~無理しなくていいんスよ、やだったでしょ?』とか『話聞くから一緒に帰ろ?』とか言われてさぁ……」
「……」
「まあ俺は全てを無視して中指立てて帰ったんだけど」
「はい」
「その後に二次会なのか知らないけどまたでっかい居酒屋みたいなとこで皆でご飯食べてて、そこにクソ店長も黄瀬も他のバイトの人とかもいて。席は離れてたし話しかけられても無視してたからいいんだけどその後に」
「まだあるのか……」
「なんでかみんな一緒に寝ることになってテントに行ったら外側はテントなんだけど中は完全に部屋んなってて、ベッドが六個だけあんの。俺は壁側の端っこに寝て、隣のベッドにミニチュアシュナウザー飼ったあの事務の男の人が寝てて、ん~、どれぐらい寝てたのか知らないけどしばらくしたらドアが開いた」
「嫌な予感がする」
「誰か入ってきたなーって思ってたらすぐ傍に誰か経ってる気配がして、見れば黄瀬が立ってんの。何してんだこいつ、て思って見てたら腹らへんドスって刺されて殺される夢だった」
「総じてお前が大変な夢だったな」
「最悪な気分で起きた。黄瀬のことはブロックした」
「ああ……まあそのほうがいいかもな」
「征十郎も安心だもんね」
「……」
「俺が黄瀬と仲良くなるのヤなの知ってるし」
「うわ……」
「あはは、征十郎かわいー」
「うるさい……」
黄瀬涼太とバイト先が同じ夢
2023.02.27