「今日は何にすんの?」
「親子丼セット。大和は?」
「俺はオム焼きそばとピザ」
「ピザってあの馬鹿でかい誰が食べるんだってサイズのか?」
「うん」
「誰が食べるんだ」
「俺と征十郎」
「……親子丼単品にしとくよ」
「あ~ん征十郎だいすき!」
「はいはい」
「で、聞いてほしいんですけど」
「うん」
「今日怖い夢みて」
「うん」
「俺が推定小学校中学年くらいで、征十郎が俺のお兄ちゃんなんだけど」
「うん?」
「征十郎は今くらいなんかな、なんか自分より年上でデカいことしか分かんなかったからなんとも言えないけど、とにかく俺と征十郎が兄弟で、金持ち感があるでっかい日本家屋的雰囲気の家に住んでるんだよ。住んでるっていうか間借りしてるっていうか置かせてもらってる?」
「居候なのか」
「多分。金持ちの家の従兄弟だかなんだかで、親が死んだから引き取られたみたい。俺は大体二階の一番奥のいやに暗くてジメジメした部屋に閉じ込められてて、いっつもぼろぼろの服着せられてて誰かに叩かれたり怒鳴られたり詰られたりしてんだよ」
大和が?」
「俺が」
「現実だったらお前に前科がついていたな」
「征十郎って俺に前科つけんの好きだよな」
「別に好きなわけじゃない。大和だったらどうするかなって思った結果前科がつくんだ」
「なんでだよ」
「お前、自分を甚振る人間を甚振らずにいられるか?」
「いられねーな」
「倍どころか徹底的にやり返すだろう」
「そうね」
「そうなると前科がつく」
「うーん……そこまでやらないだろ」
「いや、やるな。俺に遺体処理を手伝えって電話してくるとこまでは予想がついてる」
「手伝ってくれんの?」
「……」
「そこは『うん』って言えよ。征十郎クンは冷たいなぁ」
「時と場合による。俺はお前にちゃんと日の下で生活していてほしいから罪を犯したならば償うべきだと思うからな。ちゃんと差し入れはするし手紙も書く。出所したら一番に迎えに行くと約束しよう」
「そんな真顔で言わないで、現実になりそうで怖いから」
「そうだな、これ以上はやめておこう。はい、続きをどうぞ」
「はい。俺の居るその奥の部屋はまあ掃除なんてろくにしれないから埃だらけで、砂とか塵でざりざりしてる上に色んな物が置かれてる。前までは物置だったんだろうな。汚いカーテンがついた窓がひとつあんだけど、鍵が壊れてるのか壊されてんのか開かないから空気はいつも淀んでるんだ。木のドアがついてるんだけど、それも壊れててちゃんと閉まらない」
「そこには大和しかいないのか」
「そこが俺の部屋だからね。金持ちの家なのになんでこの部屋だけこんなにボロなんだって思ったけど、俺を置くのにボロくしたんじゃねーか」
「意味が分からない。そもそも俺はどこで何をしてるんだ」
「ん~、多分ちゃんとした部屋を宛がわれてたと思う。まあ征十郎も居候の身だからあんまりあれこれ言えないんじゃないか?」
「最悪だな」
「でも征十郎は俺のこといっつも気に掛けてたぜ。自分のご飯分けてくれたり手当てして慰めてくれたり」
「それぐらいはやって当然だろう」
「んふふ、怒んなって。で、俺がいるのは大体床に直置きされたマットレスの上なんだけど、それがまた汚い上にヘタヘタでもう悲しみしかわかねーのよ。でもまあ一応寝れるし、そこが俺に与えられた居場所でもあったから大事にしてたんだ」
「うん」
「そしたら廊下の向こうから急に、あの~高跳びん時に使ったりする分厚くてでっかいビニールシート被さったマットあんじゃん」
「緑色のか」
「それ。それをさぁドアのとこからグゥーーー!!て押し込まれて、そのせいでマットレスもぎゅっと持ち上がっちゃって寝れなくなって、もう床に寝るしかなくなったんだよね」
「うん……?」
「あ、まだ怖いとこじゃないから。これから」
「はい」
「その高跳びマットがドアんとこ塞いでるから、ドアとドア枠のちょっと残った隙間からしか向こう側が見えないくて。そのぎりっぎりの隙間からマットの向こう側でその金持ちん家で可愛がられてる推定末っ子の小学校中学年くらいの女の子が友達っぽいのときゃーきゃー笑ってんだ」
「血筋がもう駄目な血筋だっていう話か?」
「んはは、ほら怒んないでピザ食べてて」
「……」
「笑い声にムカついて、こう、殺意の波動のようなものを感じてたらマットの向こう側に行ってて」
「ん?」
「友達はどっか行ったみたいで廊下を一人で歩いていく末っ子の背中が目の前にある。廊下の突き当りの、角曲がるとこにちょっとしたベランダみたいなのがあるのが見えた」
「雲行きが怪しくなってきた」
「落ちろって頭ん中で呪いながらどんどん近付いてったら末っ子が気付いて振り返ったんだけど、その目がどんどんおかしくなってって、自分でベランダから落ちてった」
「……」
「ベランダから下覗いたら末っ子は頭から落ちたみたいでまあ死んでて、それを黙って見下ろす俺の後ろから来た征十郎がすごい良い笑顔で俺のこと褒めてくれたのがもうめちゃめちゃに怖かった」
「俺は一体何をしているんだ……」
「俺のこと褒めてた」
「……そうだな」
「うん」
「それで?」
「ていう夢です」
「色んな意味で怖い」
「悪い夢だった」
「さっさと忘れた方が良いな」
「ピザ食って忘れるわ」
「そうしろ」

赤司征十郎がお兄ちゃんだった夢

2023.02.12