「あ、征十郎今日は洋風なん?」
「オムライス食べたくてな」
「とろとろのやつじゃん」
大和のは中華か?」
「そ。ピリ辛油淋鶏なんよ、今日は。ん、あげる」
「ありがとう。食べるか?」
「ひとくち。……んあ〜とろとろ!おいしい」
「うん、油淋鶏も美味しいな。思ってたより結構辛い」
「征十郎は中華何が一番すき?」
「んん……あんかけ焼きそばかな。麺がちゃんとぱりぱりになってるタイプの」
「あ〜、ぱりぱりの美味いよな。餡でちょっとしっとりしたとことか超好き」
大和は?」
「空心菜炒め」
「へえ、食べたことないな」
「そうなん?じゃあ土曜迎えに行くから食べに行こうぜ。無限に食えるから」
「分かった。終わったら連絡する」
「ん、よろしく。……昨日さぁ、休みだったじゃん」
「うん」
「四度寝くらいしたんだけど、なんか色々夢見て」
「四度寝はし過ぎだろう」
「俺もそう思う。気付いたら昼過ぎてたもん」
「何時に寝たんだ?」
「お前と電話終わったあとすぐ」
「二十三時くらいか?寝過ぎだな」
「な〜。なんか五個くらい見たよ、繋がってんのか分からんけど」
「今日の定例報告だな」
「んはは、そう定例報告。じゃあ最後までじっくり聞いてくれ」
「ああ、どうぞ」
「まず一個目がさ、チーム戦みたいなのしてて、レベルが百付近になると動物に変身できんの」
大和が?」
「俺がっていうか、みんなが?」
「へえ……」
「で、レベルが五十くらいの俺がひとりでレベル百ゴリラをぶっ飛ばしてすげーーーー!て言われた」
「おお」
「で二個目が」
「え、今ので終わり?」
「今ので終わり」
「レベル百ゴリラで?」
「そうです」
「そうですか……じゃあ二個目どうぞ」
「はい。二個目が学校みたいな場所で数学問題を解かないと龍っぽい敵と戦えなくてどんどん殺されていく夢なんだけど」
「なんだそのクソゲーみたいな世界観は」
「征十郎がクソゲーっていうとなんかあらゆる方面のイメージ壊れちゃいそうだからやめて」
「なんのイメージだ」
「貴族感のある赤司征十郎のイメージ」
「貴族じゃないんだが」
「良いとこの坊ちゃんではあるな」
「うーん……」
「で、続きなんだけど、問題解くとエヴァ的なガンダム的なそんなようなもんに乗れて龍と戦えるんだけど、それが必ずしも強いわけじゃないんだよ。いや龍が強いのかもしんないんだけど攻撃しても効かなかったり、逆に一撃で機体壊されたりしてて」
「危機的状況だな」
「そーなのよ。目の前でどんどん人は死んでいくし建物は壊されてくし大変なのに、その問題が難しくて全然解けねーの」
「お前が?」
「そう、俺が。必死こいて解こうとしてんのに解けなくて、人に聞いたりもしてたんだけど全然無理だったっていうので終わり」
「夢見が悪いな」
「次もそうなんだよ。父さんとキャンプ場に行ってた夢なんだけど、そこでなんかめちゃめちゃに金稼ぐんだよ」
「全然想像が出来ない。お前の父親は日光に当たっても大丈夫なのか」
「まあ肉体的に問題は無いと思う。すごいインドア引きこもり人間なだけで。そんでまあキャンプ場だから当然虫もいるんだけどその量がえげつなくて、父さんがこれ掛ければ大丈夫だから!てスプレー掛けてくれたんだよ」
「うん」
「で、よし金稼ぐ場所に行くぞーつって別行動し始めてちょっとしたら父さんが死んだって知らせが入ってさぁ」
「えっ」
「この先どうしようってとこで目が覚めた。次四個目」
「はい」
「温暖化かなんかで北極とかの氷が全部融けて、異常気象とかでがんがん雨が降り続いたりして海水面が上昇した結果色んな場所が水没していく夢なんだけど」
「北極の氷が融けても理論上は海水面の上昇はしない」
「夢に正論パンチすんな。南極の氷も融けて雨も降ってっしいいんだよ」
「はい」
「最初は遠くの方に海が見えるだけだったのが、毎日ちょっとずつ近付いてくるんだ」
「それはちょっと怖い」
「ん〜、でもあんまり恐怖心とかは無かったな。海が綺麗だったからかな、沖縄とかシチリア海みたいな青くて透き通っててきらきらしててさ」
「ああ、幻想的でいいな」
「そ、めちゃめちゃ綺麗なんだよ。時々熱帯魚みたいな鮮やかな魚とか見えたりしてた。で、全部海に沈む前に読みたかった本とかをなるべく読んでおこうと思って本屋に行って、駅前の本屋あんじゃん?」
「ああ、あの大きいところか?」
「そうそう、そこがまだ沈んでないからそこに行ったんだよ。まあ色々見て、最後に漫画コーナーに行ったらリーダーの許可がないと入れませんとか言われて」
「リーダー」
「それが俺の兄なんよ」
「兄なんていたか?」
「いねーな、俺も一人っ子だから。そのイマジナリーブラザーは俺に許可を出してくれないんだよ。後からきた野郎二人にはすぐ許可出されてコーナーにどかどか入ってくのに俺はどつかれて追い出されんの」
「お前何したんだ」
「何もした記憶はないんだな〜、俺にお兄ちゃんいないもの」
「ああ、イマジナリーだったな。イマジナリーでいいのか?」
「俺の夢の中にしか存在しないからイマジナリーでいいんじゃない?」
「その言葉だけ聞くと妙に怖いな」
「あはは、そうかも。そんで、まあどうしようもねーしもう帰ろってなって本屋出て、散歩しながら帰ったら街の色んなところが自然豊か〜になってた。建物も廃墟ばっかで、蔦とかそういうのがにょきにょき育ってんだよ」
「ほお」
「街路樹も街路樹じゃなくなってて、自然ってすげーな、こうやって世界は終わんのかって俺はしみじみ思いました」
「はい」
「朝になって外見たら、もうすぐそばにまで海面がきてた。朝日で水面がきらきらしてて、透明度が高いからその下のレンガとか放置されたまま沈んだ玩具が見えて、それがすごい綺麗でしばらくそのまま眺めてた」
「映画みたいだな」
「うん。眺めてたらすぐ近くを船が通って、今はほとんどの人が船で生活してるからウチもいよいよ船上生活かぁとか思っていつから船乗んのか母さんに聞いたら、高いから買えないし乗れないって言われた」
「そこは現実的だな」
「妙にな。だから俺は働きに出たんですよ」
「ん?」
「どっかの従業員になればその会社によっては家族ごと船に乗せてくれるらしくて、デケー船持ってそうなとこを探したらさ、あの〜前に俺がバイトしたことあるデパート覚えてる?」
「どのデパートだ。催事売り場のとこか?紳士服の方?」
「あ、催事売り場のほう。あそこで働くことになって」
「じゃあまたたい焼き売るのか」
「本物の鯛も売ってた」
「……何の店になるんだそれは」
「鯛屋さんだろ」
「鯛屋さんか」
「船のサイズ的には豪華客船くらいか?商業施設船って呼ばれてるらしくて、まんまデパートなんだよ。縦に長いんじゃなくて横に長くて、下が船になってる感じ?でまあ色んな人が来てて、なんだっけ、お前の友達」
「誰?」
「金髪の」
「……黄瀬か?」
「睫毛がやたら長くて犬みたいな奴」
「黄瀬だな」
「そのキセとやらも遊びに来てくれたぞ」
「話したことあったか?」
「絡まれたことある」
「いつ?そんなことあった?」
「征十郎いない時。京都駅でばったり会って、なんか向こうから『あ〜赤司っちと一緒にいた人っスよねぇ!』て声かけられて学校とか趣味とか住んでるとことか根掘り葉掘り聞かれた挙句に写真撮られそうになったから殴った」
「こら」
「あれは完全にナンパだった」
「なら仕方ない。それで?」
「多分季節的には夏か秋くらいだったんだけど、異常気象で時々吹雪いたりしてて、ニュースでそろそろ世界が終わりますっていう報道が流れてそれをみんなで見てるとこで終わり」
「船が沈まなくて良かったな」
「うん。最後は短いんだけど」
「とうとう最後か」
「学校っぽい造りの場所の地下にいる夢だったんだけど、鉄とかコンクリートが剥き出し?打ちっぱなし?の教室にいて、置いてある椅子とか机も脚が錆び錆びの鉄パイプなんだよ」
「急にホラー感が出てきたな」
「地下だから窓も無くて、蛍光灯もほぼ割れてるから暗くて周りはよく見えない。文化祭でつくったお化け屋敷みたいな暗さかなぁ、真っ暗じゃないけどよく見えない感じで何か出そうな雰囲気で」
「お前が出そうっていう時は大体出てる」
「あは、そうかも。じゃあ居たな絶対。その教室から出て見たことない男何人かとどっかに向かうんだけど、それがさぁ、もうめちゃめちゃ気遣ってくんの」
「転ばないようにとか?」
「とか、ぶつからないようにとか、なんか支えてきたり手引いてきたりでもう俺完全にお姫様。そういう夢」
「え、終わり?」
「終わりです」
大和がお姫様で終わりか」
「そうです」
「オタサーの姫」
「これはオカ研の姫かな」
大和が姫になった暁には部員全員生贄にされそうだな」
「んはは、何呼び出すんだよ」
「旧支配者とか?」
「それ俺も死ぬやつ」

四度寝して見た五つの夢

2023.02.09