※モブ視点でモブたちが結構喧しい、一次創作における王道学園的男子校パロ
※赤司くんの双子兄主人公



この学校で一番の有名人と言えば?と聞けば、きっとみんながみんな、生徒会長の名をあげるであろう。僕もそうだ。けれど同時に、ほとんどの生徒が赤司財閥本家の双子のご子息の名もまた、あげるのではないだろうか。

赤司財閥といえば国内でも有数の大規模な茶葉園を持つ企業グループで、独自の製造方法でつくられた茶葉は世界的にも人気が高く、合わせて製造販売されているお茶請けも続々とヒットしているとかなんとかかんとか……。細かいことはよく知らないが赤司財閥といえばお茶、世界でも大人気!ということである。
僕はあまりそういう金持ちのどうこうだの、あそこの企業はああだのこうだのということは詳しくないのだ。三男だし、跡継ぎでもないし、そういう世界にあまり興味もない。
さて。そんな赤司財閥の本家といえば、それはもうやんごとなき身分のお方である。そんなお方たちが、我が校、私立帝光学園に入学してきたのは今年の四月のことである。
日に照らされ燃えるように輝く赤毛と、見る者全てを惹き寄せ、そして跪かせるような赤い瞳。よく似た面立ちで、けれど片や鋭く、片や柔らかな雰囲気のお二人の並び立つ様はまるで宗教絵画のように神々しく、美しいものであった。
その圧倒的なオーラに気圧されなかった者があの時、いただろうか。斯くいう僕はこの世のものとは思えないその光景の美しさに気圧され、感動し、失神した。目覚めれば保健室である。あれには非常に驚いた。
そんな彼ら二人は瞬く間にその名を校内に轟かせることになるのだが、それはただ赤司財閥のご子息だから、というだけではなかった。このお二人、征十郎様と皇一郎様はちょっと信じられないくらい仲が良いのだ。いや、仲が良いなんていうレベルではなく、恋仲のそれなのでは?と激しく思わせる空気すら漂っているのである。

人里離れた閉鎖的なここでは、同性との恋愛はよくあることであった。このある種特殊なこの空間ならではの思春期特有のそれ、といった感じで、大抵は卒業と同時に消滅していくものだが、中にはそのままずっと愛を育むものもいる。
そんな中だから彼らが恋仲ではと勘繰る者は山の如くいたし、あれだけ見目も麗しければ『兄弟』で、だなんて!ということを言う者もいなかった。
人間はみな、美しいものの前には平伏すしかないのだ。彼らの前では近親相姦などきっと恋のスパイス程度にしかならない。ああ禁断の恋……!などと僕のクラスメイトたちも身をくねらせ騒いでいたくらいだ。
しかし、彼らの口から決定的な言葉があったわけでもなければ、証拠もないので、もしかすると本当にただただ距離感が少々異常な仲の良い双子、なのかもしれないが。


* * *


昼時、今日も今日とて麗しいお二人は、仲睦まじくぴったり肩を寄せ合い食堂の入り口にある“本日のメニュー”看板を見つめていた。皆がちらちらと二人を見つめ、ひそひそ、こそこそ、目を輝かせて何事かを囁き合っている。
僕も友人たちとテーブルを囲み学園内のあれやこれやな話に花を咲かせながら、彼らの様子を遠くから見つめていた。お二人は何事かを言い合い、くすくす笑って、連れ立ってカウンターへ向かっていく。その周囲に薔薇が舞って見えるのはきっと僕だけじゃあないはずだ。

「今日も一緒だな、赤司双子」
「だな。薔薇舞って見えるぜ」
「あそこだけなんか絶対世界観も画風も違うよな」
「わかる」

うんうんと頷き合いそんなことを言う友人たちに僕もうんうんと頷いた。やはり薔薇が舞って見えるのは僕だけではなかった。
お二人はカウンターで注文したものの乗ったトレーを受け取り、きょろりとあたりを見回し、それからこちらへと向かってくる。もしや、隣のテーブルに着くのではないだろうか。結構混み合う時間帯だ、テーブルひとつがまるまる開いてるのは僕たちの横しかない。

「おい」
「こっちに来るぞ」
「やばい近いんじゃねーの、中宮が死ぬぜ」
「田宮も死ぬぜ」

中宮こと僕は言葉も無く震えていた。僕と同じクラスの田宮君(彼とはお互い失神仲間だ、お二人の神々しさにぶっ倒れてからというもの大親友である)もまた無言でマナーモードよろしくバイブレーションしている。
そしてお二人はやはり、僕たちの横のテーブルに向かい合って腰掛け、揃っていただきますと手を合わせた。それからいそいそと弟君の征十郎様が個別で頼んだのだろう空の小皿に料理をのせていく。征十郎様の今日のお昼は和風日替わり定食のようだ。兄君の皇一郎様は中華の日替わりにしたようである。

「ほら」
「ん、ありがと。俺のはそっちにのせる?」
「いい。が食べ終わったらそれごと貰う」
「あ、杏仁あげる」
「ありがとう、じゃあこれ」

杏仁豆腐を受け取った征十郎様が、抹茶大福とゴマ団子を差し出す。ふわふわと嬉しそうに笑いながら皇一郎様はそれを自分のトレーにのせ、そうして食事が始まった。

「はぁ~今日も半分こですね……」
「仲がよろしいことで……」
「俺もう二人のこのやり取りだけですごい心穏やかになる……」
「わかる。世界の平和を感じる……」
「ほんとそれな」

ひそひそ、こそこそ、小声でそんなことを言い合いながらもちらちら見るのをやめられない。
お二人は共に食事をするときは必ずと言っていいほど注文した料理をシェアする。半分ずつに分けて、話をしてはくすくすとじゃれ合うように笑い、なんとも仲睦まじく食事をするのだ。甘ったるいというほどでもない、けれど邪魔できない親密な空気を漂わせて笑みを交わす彼らを見ていると、僕たちはなんとなく、平和だなあという気持ちになるのである。
購買で売っている菓子パンやら肉まんやらどら焼きやらを半分に割って、購買横の自販機の隣に設置されたベンチで仲良く食べているのを見てしまった時はもう、小さな子供を見ているような気分にすらなってくる。可愛いの極致だ。
神と天使は共存するし、美しいと可愛いも共存するのだ。僕と田宮君だけではなく、藤宮君と古宮君もそれを見た時は顔を覆って咽び泣いた。

「征、今日も放課後風紀室に行くの?」
「呼ばれてるからな」
「……」
も行く?」
「行かない。あの人、まだ俺に怯えた顔するんだ」
「……また何かしたの」
「してないよ。あんまりしつこいからちょっと叱っただけだ」
「ちょっとじゃなかったんだろ、可哀想だな」
「俺の方が可哀想だよ、嫌だって言ってるのにしつこいし、おまけに今度は征だ。気に入らない」
「何が何でも引き込みたいんだろう」
「どっちにも入らないって言ってるのに。征、断るだろう?」
「ああ」
「これでまた声掛けてきたら俺はもう許さないからね」

ぷんすかと効果音が付きそうな口調で言って唇を尖らせる皇一郎様に、征十郎様がくすくすと小さく笑った。なかなか不穏な会話だが多分風紀入りするかしないかの話なのであろう。
入学して間もなく、お二人には風紀入りしないかという声が掛かった。頭脳明晰で身体能力も高いとくれば、当然欲しがるものだ。順当にいけば生徒会入りしてしまうもの、そうなる前に自陣営に引き込んでおきたい、というところだろう。
だが二人ともその話を蹴ったのだ。理由は単純、二人で過ごす時間が少なくなるから。非常に分かりやすい前代未聞な断り文句に、風紀委員長は目を剥いて絶句したそうだ。翌日の校内新聞の号外版にその旨がでかでかと書かれていた。

「大丈夫、きっちり伝えて断っておくから」

少しだけ身を乗り出した征十郎様が、まだ不満げな顔の皇一郎様の頭を優しく撫でた。年上のお兄さんみたいな優しい顔で笑う征十郎様に、皇一郎様もつられたようにふわりと笑む。

ああ、今日も今日とて麗しく、仲睦まじいお二人である。僕たちは揃って顔を覆い、帝光学園は今日も平和であると大いに感じていた。

白日をくるむ毛布の中

rewrite:2022.02.16