Cemetery

※主人公:赤司征十郎の双子の兄をやってる教祖系(諸説あり)

悲しみであなたを殺せたら

▼ 黒子テツヤ

彼の隣にいられること自体が奇跡に近いことだとは解っている。けれど、一度隣にいることが当たり前のようになってしまうともう駄目なのだ。欲ばかり出て来て、何もかも把握していたくなって、彼が僕のものだという証明が欲しくなる。「君?」頬を撫でる風を感じて目を覚ました。カーテンがはためき、ちらちらと月明かりが暗い部屋の中を照らす。隣にあるはずの温度は何処にも無く、シーツに触れれば僅かにぬくもりが残っている。まだいなくなって間もない。滑るようにベッドを下りてベランダへ近付き、揺らめくカーテンを引けばそこに探していた姿を見つけた。身を乗り出すようにして下を見つめる彼の目は虚ろで夢見心地だ。平たい無表情は冷たく、触れることすら躊躇ってしまうその姿はあの日見た、月明かりに照らされながら海で佇む彼を思い出させた。触れれば消えそうな背中が海に沈んだあの瞬間は、思い出すだけでも恐ろしさに身が震える。「君」震える指先を叱咤して彼へと伸ばす。肩を掴んで引き寄せれば強く抱けばやっと彼が目を覚ました。「あれ、テツヤ……?」不思議そうな顔をした彼は僕の顔と今居る場所から全てを理解して、ばつが悪そうに眉を下げた。ごめんという謝罪は一体何に対してなのだろうと考えてはいけない。いままで目を背け続けてきた、どろりと腹の内で渦巻く色々な感情がちらりちらりと顔を出し始める。彼の謝罪に首を振り、早く部屋に入ろうと背を押した。「明日も朝、早いんですよね?」「うん、いつも通り」すっと離れていくその背にひくりと指が蠢き、じりじりと焼き付くような感覚が責め立ててくる。「君は」彼が離れていってしまうだなんて、そんなの耐えられない。「僕のこと、どう思いますか」ひどく震えた声は掠れ、彼に届く前に潰えた。「僕は貴方のこと、愛しています」振り返った彼に焼かれ急き立てられた指が絡みつき、震えた喉の感触が直に伝わって自分の喉も震える。彼の瞳の奥で揺れる優しい色に、涙が落ちた。ああ、なんて愚かなのだろう。
rewrite:2022.03.09 | 夢遊病の兄さん。 | 元ネタ:黒子テツヤに殺されるbot様、女子高生に殺されるbot

あなたのためのわたしなんです

▼ 黒子テツヤ
※「瞼の裏には何が潜む」if


恋の病とはよくいったものだ。ぐったりと重たい身体をベッドに転がしたままゆっくり息をする。皇一郎様のことを考えると胸が詰まって食事なんて喉を通らなくなるし、夜も眠れず寝不足になるし、何一つまともに熟せなくなる。おかげで学校を休む羽目になってしまった。あの人は今、何をしているのだろう。この時間なら迎えが来るまで図書室で読書でもしているのかもしれない。目を閉じればその姿はすぐに浮かんできた。図書室の一番奥の机で黙々とページを捲くる白魚の指、冷ややかな彫刻の横顔を淡い光が照らし美しい陰影を作り上げる。彼がいるだけで、そこは映画のワンシーンのような完璧な空間へと変貌するのだ。ああ、と零れた溜め息は熱に塗れている。彼がつい最近借りていった本を鞄から引っ張り出し、付随された貸出カードに整った文字で記されている彼の名前をそっと指でなぞった。この本を貸し出した日は僕の当番の日で、目の前に皇一郎様が立ったときは本当に死んでしまうのではないかと思うくらい緊張し、眩暈さえした。赤く煌めく瞳が自分のことを見ている、そう思うだけで恍惚と優越と、どうしようもなく汚らしい劣情が湧いた。思い出すだけでも何もかも蘇って、息が出来ない。皇一郎様、と譫言のように何度も呟いて枕に顔を埋める。熱を増した頭に浮かぶのはその姿ばかりだ。あの人は今どうしているだろう、もう車に乗っただろうか、まだ図書室で本を読んでいるのだろうか。もしかしたら今日は迎えじゃなくて、赤司君を待っているのかもしれない。あの二人は共に行動することが多く、度々部活が終わるまで彼は待っていたりもする。赤司君はほかの人間とは違い、あの人の隣に立つことを許されているのだ。あの人に僕のような人間が近付けるわけがないと分かっているけれど羨ましくて仕方がない。彼と接点を持てる赤司君が、平然と傍に居られる赤司君が。「赤司君なんて、いなければ良かったのに」どろりとした粘着質な感情を細々と吐き出しながら、目を閉じる。
rewrite:2022.03.10 | もしもが兄が黒子くんと交流がなかったら。