なんだかその笑顔が無性に腹立たしく思えて柔らかい頬を思い切り引っ叩いてしまった。じんわりとした痛みが手のひらに広がる。叩かれた廉は一瞬きょとんと僕を見つめたが、すぐにさっと笑顔を引っ込めて怯えを浮かべた。「あ、ご、ごめっ」きっとまた自分が何かしたせいで僕が怒ったと思ったんだろう。あながち間違いではないけれど、そうやってすぐに何でも自分が悪いと決めてかかるのは良くないし、理由も分からず謝るのも良くない。廉は良くないことだらけだ。怯えた顔で謝る姿にまた苛立って、赤くなった頬をもう一度張り飛ばした。頭がぐらりと揺れて滲み始めていた涙が落ちる。赤く腫れた頬を押さえよろけながら僕から一歩引く、その態度にすらイライラして仕方がない。「何で逃げるの?」距離を詰めれば詰めただけ廉は後退る。「な、何か、変、だよ、ど、どうしたの」困惑に眉を下げおろおろと廉の視線は彷徨う。それに返事はせず空いた距離を詰めて今度は拳を叩きつけた。よろけバランスを崩した廉はそのまま床に倒れ込み、一瞬呆然と僕を見上げて握られたままの拳に顔を歪めて身を守るみたいに両腕で頭を庇いぎゅうっと身を縮める。小さくなって泣きじゃくる廉に苛立ちが嘘のように消えて、言い様のない優越感と恍惚感が満ちていく。小さな子供みたいに泣く廉がとても可愛く思えた。「廉」傍にしゃがみ込んだだけでびくりと震える廉の頭をそっと撫でる。意外と柔らかいこの髪が僕は結構好きだ。腕の隙間から窺うように見上げる瞳に笑いかけると恐る恐る廉は腕を下ろした。涙に濡れた頬を出来る限り優しく拭って、「ごめんね」とほんの少し触れるだけのキスを頬にすれば、廉は驚いたように瞬きを繰り返した後真っ赤に頬を染めた。その様子がすごく可愛くて笑う僕につられたように廉も笑う。ふにゃっとしたその笑顔が僕の中の何かを異常に掻き毟ってきて、僕は思わず顔を顰めた。廉はぱちくりと瞬きして顔を顰める僕に首を傾げて、それがまた無性に、「ムカつく」そうして振り出しに戻るのである。
rewrite:2022.02.20